鳥のあそぶ蓬莱山  「お菓子の窓からのぞいたら」第39回

「鳥びしゃ」行事に奉納される「鳥ボク」にはしんこの鳥がとまる。柏市・星神社

越後一之宮の弥彦神社では、元日から三が日の毎晩、新年をことほぐ「夜宴の神事」が行われます。拝殿中央には、木彫りの小鳥があそぶ島台9台が輪になるように配置され、神職、総代らが島台を挟んで両側に着座し、宴を張ります。小神楽などが奉納されるのですが、3日目には、県内でも小正月に盛んに行われていた豊作祈願行事「鳥追い」のような所作をする「萬歳楽」の奉納もあります。

島台は。脚付きの州浜形の飾り台で、柿の枝が取り付けられ、そこへ木彫りの鳥をとまらせてあります。昔は鳥を、神社に奉職する大工の棟梁が桐の木でつくり、神職が彩色したそうです。

羽を広げていない鳥は「だんご鳥」と呼ばれ、そのうちの何羽かは、神事の後、参拝者に抽選で頒けられます。

この鳥のあそぶ島台に、元日だけ、もう1つ別の島台が加わります。松の枝に木彫りの鶴亀があしらわれた、蓬莱山を表すと思われる島台です。

蓬莱山とは、中国古代からいわれた、東海に浮かぶ神山です。中国から見て東なら、日本のことかと思えてきますが、当の日本では、正月や婚礼などの晴れがましい儀式の場に、蓬莱山飾りが欠かせないものとなっています。不老長寿の常世を表す、めでたい景色のニミチュアをつくり、場を盛り上げました。盆景や箱庭好きな日本人になじんだ、祝いのイメージです。「高砂や~」とうたわれる景色、松が枝を伸ばす州浜には、鶴亀と砂を掃き清める翁と媼がいます。

この景色を砂糖菓子だけでつくったのが、佐賀県の婚礼用島台「寿賀台」です。砂は砂糖、松は有平糖、翁と媼は金花糖といった具合で、江戸時代から高価な砂糖が手に入りやすかった、佐賀県ならではの贅沢なものでした。

食べ物でつくるものに、新年の「蓬莱」「喰積み」「お手掛け」などがあります。たとえば、州浜台やお手掛け盆の上に米を敷き、松を立て、だいだい、昆布、大豆、かち栗、干し柿、ゆずり葉などを載せて、蓬莱山に見立てました。

新年のあいさつは、この蓬莱、喰い積みから直接とった肴で一献というのが正式なあいさつでした。その後、実際に食べるというより、盆に手をかけ、食べる真似をしたり、手刀でいただきましたという意味のしぐさをして、新年のあいさつとしたのでした。佐渡や胎内市、秋山郷など県内各地の記録にも、手掛け盆の記録が残ります。

弥彦神社のような、鳥のあそぶ蓬莱山を奉納する「鳥びしゃ」「鳥まち」という旧暦小正月の行事が、千葉県柏市、印西市にあります。

鳥は米の粉を捏ねただんご生地、つまり、しんこでつくります。しんこの鳥を木にあそばせ、松竹梅の枝と、しんこの鶴亀を1対添えた蓬莱山飾りをつくります。神事当日に伺うと、皆さんなれた手つきで様々な鳥をつくっていらっしゃいました。

この「鳥びしゃ」行事は、妙見信仰をもとに日月星を祀り、弓で魔を射り、1年の無事と五穀豊穣を祈る神事です。太陽のお使いともされる鳥に願いを託すのでしょうか。

「雪中花水祝」に八幡宮境内で売られる「鳩飾り」。
枝にはしんこの鳥。通常はかえでの枝を使う。魚沼市・堀之内

県内の旧暦小正月行事にも、枝に鳥のつくりものがあります。魚沼市堀之内の「雪中花水祝」の縁起物「鳩飾り」はその名残りで、かえでの枝に色とりどりのしんこの鳥がとまっています。八幡さまのお使いということで鳩ですが、もともとは、小正月のだんごの木につけた鳥(鶯)から派生した縁起物のようです。

弥彦の神さまに、田を荒らさないよう諭されたという兎は月を、鳥は太陽を象徴します。正月3が日に鳥にかかわる神事があることは、大きな意味があると感じています。弥彦の神さまに護られていることに感謝し、来年がよい酉年となるよう祈りましょう。

「お菓子の窓からのぞいたら」39回 新潟日報2016年12月29日掲載

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