いとおかし*修道院のお菓子*メンブリージョと「かせいた」*


いとおかし*修道院のお菓子*メンブリージョ(マルメラーダ)と「かせいた」」2010.11 より転載 © le studio massako mizoguti 
「メンブリージョ」というより、ポルトガル語の「マルメラーダ」marmeladaのほうが、日本人には聞き覚えがあるかもしれません。
英語のマーマレードの語源でもあります。

スペインでは、マルメロ果実やその砂糖煮を「メンブリージョ」Membrilloといいます。
この大量に砂糖を使う菓子「メンブリージョ」は、マルメロの薬効もあり、その昔は王侯貴族への献上品でもありました。
上の写真は、スーパーなどで小売用にパックされたもので、右がスペイン、左がポルトガル製です。
もっとよい写真があったらいいのですが、ずいぶん前に現地で買ったものです。

私が初めてメンブリージョを知ったのは、バルセロナのグランハ(ミルクホールのようなカフェ)でした。
古めかしい店内は老若男女でとてもにぎやか。
そのホールの壁際のテーブルに、巨大羊羹にしか見えないものを発見した時でした。
食べてみると、新潟によくあるいちじく羊羹を思い出しました。
のし梅くらいに薄く切って食べるところなど、日本人にも違和感がなく、意外でした。
スペイン人には、のし梅は酸味があってウケそうにないけれど、いちじく羊羹なら喜ばれるだろうと思いました。

写真左は、新潟県三条市の吉文字屋さんのかりん羹「初もみじ」。
右の写真はブラジルのグアバーダ(グワバでつくる)。スペイン同様チーズとともに食べることが多いとか。

ところで、このメンブリージョ、マルメラーダはすでに南蛮菓子として日本にはいってきていたようです。
ところが、南蛮菓子だというその菓子の名はなぜか「かせいた」です。
熊本銘菓であり、献上菓子であり、主に細川家に伝来しました。

「かせいた」はポルトガル語のカイシャ・ダ・マルメラーダCaixa da Marmeladaの「カイシャ・ダ」が語源というのが定説ですが、にわかに信じられません。
caixa は「箱」の意味で、スペイン語だとcaja「カハ」ですが、
バルセロナを中心にカタルーニャで話されるカタラン語だと caixa「カ(イ)シャ」です。

カタラン語の「カイシャ」も箱で、小さいことを表す接尾語がつくと「カシェタ」「カシータ」です。
例えばですが、カタラン語でマルメラーダの「小箱」は、caixeta de mermelada de codonyat となるのでしょうか?
1851年のカタルーニャ料理の本には、マルメロ羹は、melmelada de codonys と出ています。
ポルトガル語はカタラン語と似ていますが、現代のポルトガル語だと「小箱」は、caixinho とかでしょうか?
宣教師はポルトガル人だけでなかったにしろ、結局のところ謎で、解明を待ちたいです。
余談ですが、「カ(イ)シャ」で私が私思いおこすのは、バルセロナに本社のある銀行 La Caixa を思い出します。ジョアン・ミロのコーポレート・マークがとってもいいのです。


ところで、マルメラーダの箱は曲げものだったようで、いくつかの絵画にも描かれています。
Paolo Antonio Barbieri  1635
Paolo Antonio Barbieri  1637
そして、細川家に現存する明治19年製「かせいた」(永青文庫蔵)も曲げものに入っています。
「箱」と聞いて、当時日本に入ってきたものの中で、私としては一番気になるのが、聖餅箱Caixa de Hostiasです。
 
左上の写真はマカオのサン・パウロ天主堂跡の博物館に展示の聖餅箱。
右上は、現在作られている、九曜紋の焼印が押された「加勢以多」。
マルメラーダの箱と、それをはさんでいる薄種(種煎餅)の箱も含め、
ダブルで「箱」というネーミングへつながっているのではないかとも感じます。
明治になって改良してつくられたという、薄種にはさんだ現在の形状は、まったく新しく考えたものなのか、以前よりそういった食べ方をしていた可能性もあるのか、興味のあるところです。
また、薄種(おぼろ種)を「玉川」と呼ぶそうですが、熊本ならではの製菓用語なのでしょうか? 
細川忠興の奥方はガラシア夫人(明智玉)ですから、とても気になります。

薄種・オブレアスは、スペインなどでも「トゥロン」(フランスならヌガー)などの製菓用に多用します。
ですので、メンブリージョの上下をオブレアスではさんだ菓子があっても不思議はありません。

細川藩では支藩の宇土にマルメロ畑(おんぼつ場)を持ち、栽培もしていました。それほどの熱の入れようですから、マルメロ、マルメラーダという言葉はご存じだったはずと思われます。
栽培はむずかしかったようですが、最近地域の方々で栽培復活の動きもあるようです。
永青文庫所蔵の『百卉侔状』(18C)に、マルメロの図がカラーで描かれているのを、今年東京であった「細川家の至宝」展で見ることもできました。

なぜ小箱が菓子の名になってしまったのか? 「箱」にも意味があったような気がしてなりません。

そうそう、フランスのオルレアン名物にもなっているマルメロ羹Cotingac(写真下)は、今も曲げわっぱ(ケセット=カシェタ)に入っています。
自作のマルメラーダ、マルメロ、コティニャック

橋爪伸子さんの論文時献上から名菓への変遷 熊本のかせいたを事例に」では、製法上の変化についても詳しく考察されています。
右側に表示のある「プレビュー」から実際に読むことができます。

また、良寛さんが記した「くゎりん漬けひと曲」については、こちら
2010.2掲載 2010.11更新 2014.7リンク追加

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